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アフリカ農村部のデジタル化に挑む

アフリカ農村部のデジタル化に挑む

2022/06/22
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 今回は、西アフリカで通信サービスを展開する株式会社Dots forを起業した大場カルロス氏に、アフリカ農村部におけるデジタル化の意義とこれからのアフリカについてご寄稿いただきました。

大場 カルロス|Carlos Oba
株式会社 Dots for(共同創業者兼CEO)

 2021年10月にアフリカ農村部の住民が抱えている課題をデジタル化によって解決するため、株式会社Dots forを創業。起業するまではAmazonやリクルート、WASSHA、
C Channelなどにおいて、アフリカを含むグローバル事業の立ち上げや海外子会社のマネージメントに従事。Amazonではトップライン向上や生産性向上に貢献し、C Channelの海外事業執行役員としてタイ・インドネシア事業1年目で単月黒字を達成した。直近はアフリカスタートアップのWASSHAの新規事業マネージャーとして、バイクタクシー事業者向けサービスの立ち上げを主導。米国Univercity of California, San DiegoでMBA取得。ブラジリアン柔術紫帯で100カ国近くを旅した現役バックパッカーでもある。

アフリカに辿り着くまで

 実はカルロスはニックネームで、名乗り始めたのは2012年、MBA留学のためにアメリカのサンディエゴに行った時です。当時は中南米で仕事をしたいと考えていて、ラティーノが多いサンディエゴで中南米ビジネス関係者と繋がるのではないかと思い、スパニッシュネームとして名乗りはじめました。ビジネススクールの休み期間にはアメリカ国内を旅行する同級生を横目に中南米に視察という名の遊びに行っていました。スペイン語の実力が伸びたのもこの頃ですね。現在西アフリカで事業する中で使っているフランス語よりも、スペイン語のほうが得意です。

 今のDots forの事業アイデアを着想したのもこの頃にキューバに行ったのがきっかけです。当時はまだアメリカと国交が回復しておらず、民間人が使えるインターネットもほとんどなかったキューバでしたが、ハバナの中央公園にあるキューバで唯一のWifiホットスポットでインターネットを利用するためにわざわざ出かけてくるキューバ人を見かけました。彼らの月収は30ドル程度なのに、30分で4ドルもするプリペイドカードを買ってインターネットに繋がろうとしている。その熱量を目の当たりにして、自分には当たり前のインターネットがまだない世界があり、それでも繋がりたいというキューバの人々の熱量を感じました。インターネットインフラがないキューバ全土を圧倒的なスピードと安さでインフラを作るためにどうしたらいいのか?という発想で考えたことが、現在のDots forの事業アイデアの元になってます。

 その後、日本に帰国したり、アメリカやヨーロッパへの海外展開・タイの子会社運営・タンザニアでの新規事業などしましたが、結局今に至るまで中南米でのビジネス機会は得られないまま、なぜか西アフリカで起業するに至りました。

 そんな背景があるので、いつかDots forの事業をキューバやカリブ海の島々、中南米の国々でもやりたいですね笑
 

なぜアフリカの農村で起業したのか?

 アフリカ農村の置かれている課題が多い現状を、スタートアップという方法論で解決できる。その伸び代が一番大きかったからです。

 これまでの寄付や助成金といった従来型の開発手法で箱物やインフラを提供するというアプローチでは、継続性の谷を超えられないと思っています。少しでも壊れたら、直せる人がいない、直せるパーツがない、または直さなくても無いなら無いで我慢する。ということで、どうしても導入した設備が継続的に使われていなかった。

 全く明かりがついていないソーラーパネル付きの街灯、枯れた井戸や給水タンク、収納ボックスと化した医療用冷蔵庫など、アフリカの村々を巡っていればいくらでも見つけることができます。

 その一方で、我々はエンドユーザーである農村住民から直接お金を支払ってもらうことに拘っています。利用者である農民がお金を払ってでも解決したいソリューションを提供できるかがとても大切だと思っています。これは、ユーザーから求められることを妥協せずに突き詰めるという、サービスにとって当たり前のことをやるということですね。そこに加えて、サブスクリプションの形式を取ることで、エンドユーザーがお金を払い続けるために企業側も常にサービスレベルを保つための努力を続けなくてはならない仕組みになっています。この二つが組み合わさることで、継続性の問題がクリアされるわけです。
 

Dots forが提供する「分散型通信」とは?

 アフリカといえば「分散型」がキーワードになっています。例えば「分散型電力」はよく聞くワードだと思います。これまでの発電所で電気を作って、それを全国に張り巡らされた電線を通じて全国の家庭に配電する「中央集約型」の方法に変わって、ソーラーパネルやバッテリーによって地域や家単位で電力を賄う方式ですね。我々Dots forはこのシステムの通信版を「分散型通信」と呼んでおり、村単位で通信インフラを作っています。

 分散型通信により、これまでの中央集権型の通信インフラに比較して圧倒的に低い初期投資と設置スピードを出すことができるので、たとえば通信が全く繋がらないある村から「明日には村の中でサービスを使えるようにしてくれ」と言われたとしても、「なんだったら、今から行って今日から使えるようにできますよ」と言えるくらいのスピード感でネットワークを広げることができています。

 そして、通信ができることで知識の情報爆発が起きる。インターネットが勃興してきた1990年代を高校生大学生として経験した身としては、インターネット以前の生活に決して戻れない強烈な原体験があります。それをアフリカ農村部で起こしたいと強く思っています。
 

アフリカの学校教育での応用

 先日、その地域に小学校が無いので草の根で学校を作っているベナン人に会いました。しかしながら、そのような地域に住んで小学生の子供を持つ親の半数が子供を小学校に行かせず、代わりに農業の手伝いをさせている現状があります。そのため、学校側には授業料が入ってこないため運営費が捻出できない問題を抱えています。私が訪問した草の根の小学校は、登録料が払えないためベナンの中で正式な学校として認められていないとのことでした。Dots forはデジタル化のシステムを活用して、この状況を変えようとしています。

 ベナンの大学生も大変です。小学校から高校をドロップアウトせずに教育を受けて、大学に進学したとしても、親元を離れて都市に一人で住むための生活費を捻出できない。そのため、在学中に何度も休学しては地元の村に戻って家族の農業を手伝い、お金をためては復学し、お金がなくなったらまた休学する。卒業するには10年程度かかっている子もいますし、途中で諦める学生も多くいます。このような大学生がお金の心配をしないで学位を取得できる仕組みを考えています。

 いずれも、我々が提供しているデジタルプラットフォームで実現できると考えています。
 

アフリカ地方での雇用の創出

 アフリカの地方にいて感じることは、仕事が農業しかなく、それ以外の雇用機会がほとんどない。かといって、農業だけでは収入も安定しない。我々は、アフリカの地方津々浦々に展開する中で、そのような地域の人々に対して雇用機会を作ることも大事な活動だと思っています。これは我々のパーパス「アフリカ地方部の制約をなくす」の実践ですが、決して慈善事業としてやるわけではありません。アフリカの地方によっては余所者に排他的な地域もありますし、ローカルの言語が違って会話ができないこともあります。なので、私たちはその地域出身者を積極的に採用し、より深くコミュニティに入り込む形を取ります。例えば、前述の休学して地元の村に戻っている大学生をその地域の村を担当するインターンとして採用し、インターン期間中の報酬を復学の費用として積み立てるスカラーシップを作っています。それにより、展開する地域の中での雇用創出と効率的な事業の拡大を両立しています。

 「早く行くなら一人で行け。遠くに行くならみんなで行け」というアフリカの格言があるらしいのですが、実際はアフリカで一人だと早くすら行けないんですよね。なので、今後も積極的にローカル人材を仲間にしていきます。
 

今後の展開

 先述のアフリカ農村での教育のデジタル化もそうですが、デジタル化のインフラ構築は準備段階でしかなく、その先に何ができるかを模索していかないといけません。今直面している課題を解決するだけでは農村の人たちが払ったお金は単なる「消費」になってしまいます。そうではなく、その払ったお金で収入が上がるような「投資」になる施策やサービスをどれだけ作り出せるかが今後の重要なポイントだと思っています。このサービスを自社で開発しながら、日本内外でデジタルサービスを提供しているスタートアップや企業との協業を模索していきます。
 

最後に一言

 毎回色々な場面で言っているのですが、現場に来ないと想像できないことがたくさんあるので、皆さんには一度でいいのでアフリカに来てほしいです。時間があれば、都市だけでなく地方農村まで足を運んでください。今まで常識だと思っていたことが当たり前ではないなど、いろんな発見や気づきがあります。人生観が変わると思いますよ。